竹パウダーを用いた野菜栽培における土壌菌叢

概要

葛飾区は23区の中で、農業が存続している数少ない区のひとつです。区内農業者世帯数は176世帯、区内にある農地は約37.8ヘクタール(東京ドーム球場の約8倍)(平成28年度現在)です。現在では、「小松菜」の栽培を主力に「枝豆」、「ほうれん草」、「ねぎ」、「キャベツ」などの栽培が中心になっています。(葛飾区ホームページより)

都市農業における野菜の高品質化への取り組みに資するため、葛飾区内農地で行う野菜栽培試験の経過及び結果等に係る調査研究の委託を葛飾区から受け、本学が受託研究として実施しました。

研究目的

都市農業における野菜の高品質化への取り組みに資するため、葛飾区内農地で行う野菜栽培試験の経過及び結果等に係る調査研究を実施する。

研究内容

  1. 試験用農地で比較栽培した野菜の成分分析(栄養成分、食味等)
  2. 試験用農地の土壌分析(微生物学)

受託研究期間

平成28年度

受託研究担当者(役職等は平成28年度現在)

東京聖栄大学 食品学科

教授・学科長
丸井 正樹

研究方法

2圃場においてそれぞれ数種の野菜(コマツナ、枝豆、ホウレンソウ、カブ、ダイコン)を栽培し、栽培期間中の土壌菌叢を調べた。各野菜の栽培は竹パウダーを施した土壌(以下、竹あり)と施さない土壌(以下、竹なし)とで同時に行なった。土壌試料の採取は野菜の成長に応じて実施した。土壌菌の試験項目として、一般生菌数、分離菌の形状観察とした。収穫した野菜の成分については、重要な栄養成分として鉄を、えぐみに関連する成分として硝酸態窒素を定量した。嗜好調査を目的として2点比較法の官能評価を行なった。

一般生菌数は標準寒天培地にて混釈培養法で求めた。菌の分離は画線塗抹法で、形状の観察はグラム染色法と簡易同定キットでそれぞれ行なった。

実験結果及び考察

順調に成長したコマツナとエダマメとホウレンソウについて評価に値する結果が得られた。土壌菌の一般生菌数は、栽培開始時から収穫時まで竹パウダーの使用の有無に係らず、107前後で大きな変化はなかった。図1に若林圃場のエダマメの結果を示す。菌叢においては竹パウダーの有無でちがいが見られた。竹ありだけに生じた菌があり、コマツナとエダマメそれぞれに10種類ほど分離された。このうちエダマメの分離菌株3種は2圃場に共通した菌であった。この3菌株はそれぞれグラム陽性桿菌、グラム陽性球菌、グラム陰性球菌であった。なお、コマツナとエダマメの菌叢はともに栽培期間を通してグラム陽性球菌が多く、グラム陰性菌が少なかった。図2にエダマメのグラム染色菌種別菌数を示す。土壌菌が作物に影響すると仮定すると、菌の種類が関係あると考えられる。菌種ごとにその代謝産物は異なりその中においしい作物に有効な成分があれば、その菌が有用菌となる。竹ありに特有な菌はその有用菌の可能性があり、菌の同定とその代謝メカニズムの解明が竹パウダー利用の一助となると考える。

鉄含有量においてはコマツナとホウレンソウともに竹パウダーの有無に差は認められなかった。(図3)コマツナの結果は市販品よりもかなり低いものであることから、試料数を多くし、データの信頼性を上げる必要がある。硝酸態窒素については、竹あり竹なしよりも少ないようであるが、有意差が得られるほどではなかった。ただし、コマツナの竹ありは市販品と比べて有意に低かった。(図4)竹なしに市販品との差がなかったことから、硝酸態窒素の低含量が竹パウダーの特徴の一つとして期待される。

ホウレンソウの食味についての官能評価では、総合評価において竹あり竹なしでは優位な差が得られなかったが、甘味においては竹ありに甘味を感じる回答が多くあった。ホウレンソウ以外の多くの野菜において甘味があるとの評価があることから、甘味に関係する糖成分の分析が竹パウダーによる甘味のメカニズムの解明に必要と考える。官能評価に関してはデータ数の蓄積により確かな傾向がつかめるようになると考える。

図1 土壌中の一般生菌数の変化

図2 エダマメ土壌菌のグラム染色による分類

図3 コマツナとホウレンソウの鉄含有量(リフレクトクァントによる)

図4 コマツナとホウレンソウの硝酸態窒素含有量(リフレクトクァントによる)

表 ホウレンソウの官能評価(n=47 %)

甘み えぐみ 総合評価
竹あり 60 54 53
竹なし 40 46 47