研究担当者
東京聖栄大学健康栄養学部食品学科 教授 丸井正樹
研究期間
平成30年度(平成30年5月7日〜平成31年3月31日)
研究目的
都市農業における野菜の高品質化への取り組みに資するため、区内農地で行う野菜栽培試験の経過および結果等にかかわる調査研究を実施する。
研究実施場所
東京聖栄大学が準備する研究施設および葛飾区の指定する区内農地
概要
平成28年度から平成30年度までの3年間で、竹パウダー(粉砕した竹粉末)の栽培土壌の改良の有効性を検証した。平成28年度には竹パウダーの施用によるホウレンソウの食味向上効果が官能評価により認められ、土壌分離菌株より土壌菌叢の異同が推察された。平成29年度には、土壌微生物群衆構造からコマツナ栽培土壌において竹パウダー施用による変化が認められた。今年度はコマツナおよびホウレンソウの官能評価を2種類の試験法で行なった。また、ホウレンソウ栽培土壌の菌叢解析を行なった。
官能評価の結果からはコマツナおよびホウレンソウともに竹パウダー施用のものの方が甘味があった。ただし、総合的に比較評価した場合、明確な違いは認められないようである。
土壌菌叢については、竹パウダー施用により変化が認められた。竹パウダー使用固有の菌を数種類得たが、それらの詳細についてはまだ明らかになっていない。DNA解析では、コマツナ栽培土壌菌叢に竹パウダー使用の有無で違いが認められたが、ホウレンソウでは確かな結果は得られていない。
材料と方法
1.官能評価試験
- (1)試料
- 竹パウダー施用栽培のものと施用しない通常栽培のものをそれぞれ同条件で茹でたものを供した。
- (2)方法
- 2点嗜好試験法にて、甘味、えぐみ・苦味、総合的好みを調べた。また、コマツナについては3点識別試験法にて、竹パウダー施用の有無に違いがあるか否かもみた。試験の実施は、東京聖栄大学7号館官能評価室で行なった。
① コマツナ
第1回 | |
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実施日 | 平成30年5月23日 |
パネル | 東京聖栄大学食品学科学生12名 |
官能評価方法 | 2点嗜好試験法 |
第2回 | |
実施日 | 平成30年7月3日 |
パネル | 東京聖栄大学食品学科学生25名 |
官能評価方法 | 3点識別試験法 |
② ホウレンソウ
第1回 | |
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実施日 | 平成31年1月18日 |
パネル | 東京聖栄大学食品学科学生44名 |
官能評価方法 | 2点嗜好試験法 |
2.土壌菌叢解析
平成29年度と同様に2圃場のコマツナとホウレンソウ栽培土壌を試料とした。DNA解析は昨年度同様にDNAの抽出を行なったが、PCRによる増幅は耐熱性DNAポリメラーゼとしてKOD Plus (TOYOBO) に替えて、KAPA Robust HotStart ReadyMix PCR Kit (KAPA BIOSYSTEM / ROCHE) を用いた。DGGE(変性剤濃度勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動)もバイオラッド社のユニバーサルミューテーション検出システムDCodeに替えて、恒温・冷却2連DGGEシステム(日本エイドー株式会社)を用いて行なった。
結果および考察
1.官能評価試験
(1)コマツナ
① 第1回(2点嗜好試験法)
竹パウダー施用栽培の方が甘味があるとの回答が12名中10名であり、パネル数が少ない結果ではあるが、有意差(p<0.05)が認められた。しかし、えぐみ・苦味が少なく、総じて好まれる傾向にあったが、有意な差は得られなかった。
② 第2回(3点嗜好試験法)
正しく識別できた回答が25名中13名あり、竹パウダー施用栽培のコマツナに有意の差(p<0.05)が認められた。
コマツナにおいては、竹パウダーの施用で甘味が増すことが明らかになった。しかし、甘味が多ければ好まれるとは限らず、総合的に高く評価されるとはいえない。
(2)ホウレンソウ
竹パウダー施用栽培の方が、甘みがあるが44名中37名で、総合的に美味しいが35名であった。いずれも危険率1%未満で差が認められた。えぐみ・苦味には有意差が認められなかった。
ホウレンソウにおいてもコマツナ同様、竹パウダー施用で甘味が増すといえる。また、コマツナとは異なり、この甘味はホウレンソウの総合的評価にプラスに働くようだ。因みに、平成28年度に報告したように鉄含有量に差は認められず、竹パウダー施用による栄養的優位なコマツナおよびホウレンソウは期待できない。竹パウダーの施用栽培は、甘味の増加が好ましい作物にはその商品価値を高める有効な方法となり得ると思われる。
2.土壌菌叢解析
土壌から抽出DNAを得て、PCR増幅もしたが、良好な増幅産物が得られなかった。あえてPCR増幅した糸状菌18SリボソームDNAおよび細菌16SリボソームDNAのDGGEを行なったが、明快な結果が得られなかった。PCRとDGGEのそれぞれの条件を検討する必要がある。しかしながら、平成29年度の結果で竹パウダー施用による土壌菌叢の変化が推察されたことから、さらなる解析が望まれる。平成28年度に得た土壌分離菌株からも貴重な情報が得られると考える。